住んでいるアパートの前は整備されていない森だ。
猫がたまにうろうろしているくらいで、人が通れる道もないので逆に安心。
その森に何かが棲んでいるっぽいことに気づいたのは、このアパートに住み始めて1か月くらい経った頃。
大家さんから、生ごみは鳥とかが食べるからそこの森に投げ捨てていいよ、と言われていた。
確かに鳥はすごくたくさんいる。カラスっぽい黒い鳥は毎日見るし、特徴的な鳴き声もよく聞こえてくる。
ある日、外に出る鉄扉を開けて森の方を見たら、明らかに何かと目が合った。
鳥じゃないぞ、と思いゆっくりと近づくと、人の気配を察して固まっている動物がいた。
こちらも見たことのない生き物に対して固まってしまい、お互い硬直していた。
サイズは40cmくらい。足が長い。色は黄土色。2匹いる。これなに??
静かに写真と動画を撮っていたらさすがにあまりにも見られていることに気づいたのか、コソコソと森の奥に逃げて行ってしまった。
最初は大きいネズミなのかな、と思っていたけどネズミにしては足が長い。
Googleレンズで調べてみるとAgoutiというのが出てきた。
これだ。毛の色もサイズも間違いない。
メキシコでは《セレケ》と呼ばれている、とのこと。
アグーチは中南米の森や林地で見られ、種によって異なるものの熱帯雨林やサバンナ、近年では耕作地でも生活している。夜は木の洞や根の間に掘った巣穴に身を隠している。優雅な動きの活発な動物で、バネが強くトロットやギャロップのような走りをする。水辺にもよく現れ、泳ぎも得意である。
確かにここは中南米の森だし、なんとなく動きも優雅だった。
そしてどうやら泳げるらしい。意外すぎる。
最初に発見してから、4,5回は見かけているのでこの森に棲んでいるんだろう。
いつも食べ物を探している感じなので、最近はにんじんの皮や、キャベツの芯、ブロッコリーの茎など積極的に森に捨てている。
数分後に覗くとしっかりなくなっているので、きっとセレケが食べてくれているのだろうと信じている。カラスだったら許さない。
先ほど、ほうれん草の茎を捨てに行ったら、おじさんが思いっきり森の木を伐採していた。
こちらとしてはすっかりセレケに心を奪われてしまっているので、勝手に人の棲家で何してんの!とおじさんを見たら、陽気に「Hola!」と言われてしまった。
無視するわけにはいかないので「オラ!」と返したものの、顔は怒っていたと思う。
今もまだ伐採している音が聞こえる。
森の入り口がすっきりして、奥まで丸見えになってしまったらセレケはもうここに出てこないかもしれない。そんなことは断じて許されない。
今後、一人異国で「森林伐採断固反対!」と運動をすることになるかもしれない。
その時は是非応援してください。